恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
いつまでも藤井さんに送り迎えしてもらうわけにも行かないではないか。


最後のクリームコロッケを、ぱくんと口に入れる。
一人が目立つこの空間は居心地が悪い。


早々に席を立って、お手洗いにでも行こう。
そう思って手荷物とランチプレートを手に、立ち上がろうとしたときだった。



「火のないところに煙は立たないっていうよね」



………?


それほど、大きな声でもない。
私に向かって言ったという、確証もない。


私の名前付きで言われたわけでもないし。


けれどもやけに耳について、声のした方を振り向いた。



「?」



背後にも、私が座っている席と同じような、長机に簡易のパイプ椅子が並んでいる。
それは、いつもの風景でなんら変わりはない。


アパレルの販売員だろう、少し派手な二人組、事務所の人間だろうスーツ姿の人。
デパ地下で見かける販売員の子もいるが、スペースも離れているメーカーの制服だから知り合いでもない。


私の方を向いてる人は誰もいなかった。



---… 気のせいかな。



色々あって、神経質になっているのかもしれない。


荷物の持ち手を腕に通して、ランチプレートを持ち直すと、今度こそ立ち上がった。
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