恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「……なんですかその顔」

「いや、この年になって女に金出させて後ろで待ってる俺を想像してた」

「ええ?学生に金出させるワケじゃないしたかがラーメンだし」

「いやだ。哀しくなるから俺が払う」



……意味不明。
通りすがりのラーメン屋でかっこつけなくても良いのに。


ちょいちょいメンドくさい性格だ。
引き下がりそうにないので、結局そのままご馳走になる。


店を出て車まで並んで歩く。
秋になって、夜は少し冷えてきた。

風が間を通り抜けるくらいの距離間。



『あなたしか欲しくないって言わせてみたくなった』



あれから、彼は特に何も言わないし、何もしない。
私はあの言葉をどう受け取ればいいのかわからないまま、少しほっとしている。


漸く踏み出してゼロの地点にたったのだ。
今は、揺らされたくない。


ずるいな、と思う。
揺るがない自信がないから、安堵している。


少し歩く速度を落として、長身の後ろ姿を見た。


面倒見が良いからといって、このままでいいのだろうか。
笹倉とせっかくけじめをつけたことを、無駄にしているような気がした。


嫌がらせがおさまるまで?
それっていつになるの。


それまでずっと送ってもらうわけにもいかない。


駐車場に着いて、ピピッという音と車のロックが外れる音がして。
少し距離ができていたことに今気づいたのか、彼がこちらを振り返って言った。



「ほら、早く乗れ」



迷いながらも決められない私は、小さく頷いて、車に駆け寄る。

誰かに見られているような後ろめたさ。

すぐ側に立つ街灯の回りを、蝙蝠が羽ばたくのが見えた。
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