恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
ああ。


私の内側に躊躇なく踏み込んで来るこの人が、きっと怖いのだ。
居心地の悪さを感じて、窓の外を見て紛らわそうとするが、うまくいかない。


藤井さんは私の反応を待ってるのか何も言わなくなった。
それがまた癪に触って、私はスカートの薄布を握りしめる。


バッグの中から携帯の振動が伝わってきた。
何度か繰り返して一度は切れて、また鳴る。


この鳴り方。
母親だ。


悪戯電話は着信拒否してあるし。


ああ。
いやだ。


イタ電とか鬼電とか、そんなんばっか。


なんでみんな放っておいてくれないんだろう。


拳を作った、手のひらの内側が汗ばんで気持ち悪い。
気分と連動して、徐々に視界が暗くなって、狭くなって目を閉じた。



「…美里?」



すぐ近くのはずの藤井さんの声が、なんだか遠くに聞こえる。
このまま殻に閉じこもって、何も聞こえなくなりたい。


なのに。



「携帯鳴ってる」

「出たくない。今は優しくできそうにない」



いらいらが助長されていく。
車内の静寂が振動音を藤井さんに伝えた。


いらいらとかもやもやとか、とにかく黒いものを吐き出したくて深呼吸した。
ああ、でも。


止まらない。



「だって、仕方ないじゃないですか」
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