恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
何より、あの日、弁当を持って狭山を尋ねたのは。


『狭山さん、遂に折れて藤井さんと食事に行ったみたいですよ!』と、ご機嫌絵文字付きでわざわざ知らせてくれた三輪のメールに、心穏やかではいられなかったからだ。


冷静に考えてみれば、不自然だった。
普段仕事の事務的なメールしかしないのに、その日は最後にそんな話題が付け足されていたのだ。




「っつーか、さ。この広いフロアで、1人の客が1つの店に毎日来るってだけでそこまで噂になるってのが。タチわりぃよな」

「え……あ、そうですね。みんな良く見てますよね」



ホンの一瞬ではあったが、三輪の表情が、引き攣るのが見て取れた。
だが、すぐに苦笑で取り繕ったのは。


おとなしい顔して、ホントは面の皮が厚いのか。
それとも、彼女が広めたわけではないからそれほど動揺せず、ただ噂話を俺に振った気まずさだけのことだったのか。


今の反応だけでは、どうとでも判断できる。


だが、噂話に限って言うなら三輪がわざと流したと考えれば色々としっくり来るのは確かだった。



「あ、接客行って来ます」



その言葉に売り場に目を向ければ、ショーケースを覗き込んでいる客がいた。


配伝の束を置いて、客に向かっていくその後ろ姿を見送る。


確証のもてない相手に、さりげなく釘を刺すのは難しい。
もう何度目かの、溜息が出た。
< 176 / 398 >

この作品をシェア

pagetop