恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
驚いて顔を上げれば、片肘ついて此方を見る視線とぶつかった。
いつもの意地の悪そうな目つきはなりを潜めて幾分柔らかい。


「え、バームクーヘン買いに2時間? 」

「別に、ドライブしに行くだけ。悪い? 」

「悪い…っていうか」


悪い? のニュアンスまで、優しい。
妙に気恥ずかしくて、私から視線を外してしまった。


「まだ、決まったわけじゃないですしね」


居心地の悪さをごまかすように、烏龍茶のグラスに手を伸ばしながらそう言った。


「それほど、苦にならない距離だってことだ」


その一言で、絶望的な距離じゃないって励ましてくれたのだと、気づいた。
私は黙ったまま、唇だけ笑って返す。


そうだ。
会う理由があれば、会えない距離じゃない。


理由が、あれば。
生まれる焦燥は、私が持ってはいけないものだ。


軽く頭を振ってそれを追い出すと、視線を上げた。


「恵美にも笹倉にも、まだ言わないでくださいね。一応、店長以外には他言無用って言われてるんです」


他言無用の理由は多分、他メーカーに漏れるのがまずいんだろう。
恵美も笹倉も、話したとしても個人で収めてくれるに違いないけど。



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