恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



藤井さんに送ってもらう途中の車の中で、携帯の着信に気づいた。
もうじき家に着くし、いつもなら帰ってから確認したかもしれない。


けれど、なぜかその時は胸騒ぎがして迷いもなく携帯を開いて、正直驚いた。
それは、何年も会ってない、登録だけはしてあっても連絡などしたことない父親からの着信だった。


出たくない。
きっぱり、そう思った。


母親をあんなにして放置したのは父親だという怒りが拭えないのに、声を聞けば懐かしくなってしまいそうで。


二つの感情のどちらが塗りつぶされるのか、怖いながら試したくなって。


『……美里』


声を聞いた途端、答えはでた。
どちらも消えない。怒りも懐かしさも膨らむだけだ。


「お父さん。何…」

『美里、母さんが』


お母さんが、何?


頭が真っ白に、なった。


最後に話したのは、何日か前。
また荒れて電話してきたのかと思ったら、落ち着いた状態だったので嬉しくて、少し安心もした。



「美里?どうした?」


真横から声が聞こえた。
藤井さんが、運転しながらちらちらと私を見ていた。


「どうしよう、お母さんが、倒れたって…」


電話の向こうでは父親が何か説明しているけれど、さっぱり頭に入ってこなくて。


「どうしよう」


すぐに路肩に車を止めた藤井さんが、私の手から携帯を抜き取った。


< 233 / 398 >

この作品をシェア

pagetop