恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
呆気にとられて反応できずにいた。
彼は父と幾らか言葉を交わしながら、カーナビを操作し始める。


「藤井さん?」


問いかけると、電話を肩で挟んだまま人差し指を立てて唇に当てる。
黙ってろって意味。


見ていると、番号を復唱しながらもう片方の手でカーナビに入力していく。
検索をかけて、表示された場所は実家の近くの県立病院だった。


「2時間くらいで着くから。今すぐどうこうなるって状態じゃないらしいけど、意識が戻らないそうだ。とにかく行こう」


ぽいっと膝に携帯が投げ返されて、見れば既に通話は切れていた。
車を発進させるエンジン音がした。


「行くだろ」

「…うん。でも」


多分、車でも2時間くらいはかかる。今からだと、深夜零時近くになってしまうだろう。


「俺明日休みだし。心配なければ朝までには帰って来れるから」


じん、と目頭に熱が集まる。
携帯を握った手の甲で、目元を拭った。


「ありがとう」


倒れたって聞いた途端、何にも考えられなくなった。
押し寄せた後悔の念に、飲み込まれて。


このままで良い訳ないって、心の中でずっとわかってたはずなのに、なんで今まで何もせずにいたんだろう。


病院に向かう間ずっと、9月に実家に帰った時の母との会話が頭の中を駆け巡る。


――― お父さん、ちゃんと愛情深い人なのよ

――― 悪いのは、お母さんなの。

            お父さん、信じてあげて


二人の話をまだ聞けないまま、冬が近づいている。


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