恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
2時間、藤井さんが気を使って色々と話しかけてくれていたけれど、殆ど頭には入ってこなかった。
相槌だけはなんとか打てていたと思うけど。







「車停めて来るから先行ってて」


藤井さんは入口付近で私を下ろして、駐車場へと向かう。
薄暗い病院の深夜受付で、母の名前を言うと病室を教えて貰えた。


良かった、集中治療室とかそんなんじゃなくて。
階段をかけあがり、病室のフロアに着くと探すまでもなかった。


病室の扉の前に立っている人影は、暗くても誰だかすぐにわかる。
なんて声をかけようか、なんてそんな躊躇いは一切吹き飛んでしまった。


深夜だから。
病院だから、声、抑えなきゃ。


頭でそう言い聞かせながら早足で近寄るけど、手も声も止まらなかった。


「今までほったらかしにしてたくせに、なんで居るの?!」


両手で父親の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
余り背の高くない、父の顔はすぐ傍で見れば。


最後に会った時よりも、随分老けて、目尻の皺が深くなっていた。



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