恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
一瞬ではあるけれど、伏せた目が寂しそうに見えて、私も時が止まったように動けなくなってしまった。


父が、胸元を掴む私の両手の上から自分の手を重ね、下ろすように促す。


「病院なんだから、静かに」

「…わかってるよ。それよりお母さんは?」


バツが悪く、目を逸らした。
促されるままに手を離すと、父は目の前の病室へと入っていき私も後を追う。


ベッドには、母が点滴に繋がれて眠っていた。
少し小走りで父を追い越すと、母の傍に寄る。顔色は悪いが、落ち着いているように見えた。


「訪ねたら返事がなくて、合鍵で中に入ったら倒れてたんだ。まだ、熱が下がらないしアルコールの過剰摂取もあるから、暫く入院になった」


背中からの声を黙って聞いていると、一拍置いて更に言った。


「お前、母さんが肝臓悪くなってるの、聞いてたか」

「聞いてない…え、まずいの?」


怖くなって、母親の手を取って握った。
後悔がどうにも拭えなくて。


私がほったらかしにしたせいだ。


「このまま酒を飲み続けたら5年も保証はできないって、ずっと言われてたらしい」


ずっとって、いつからなのよ。
母の話を聞いて、離れてるながらに相手をしてるつもりでいた。

肝心なことは何にも聞けてなかったのか。


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