恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



お父さんが出て言った日のことは覚えている。


高校3年の時、二人がよく揉めていたのは知っていた。
いつも笑ってる母が泣きながら父を責めていて、めちゃくちゃだったけれど女性の名前を口走っていた。

父は懸命に何か説明しようとしているんだけど、母は取り付く島もない。


私の前では、見せないようにしていたけど。
あんだけ夜に叫ばれたら、流石に気づく。


父が出て行く日、私はお別れも言い訳も聞かずに、ばいばいとだけ言った。





頭が重くて、身体の怠さが抜けない。
目を開くと、白い天井が見えて、見慣れぬものにすぐに事態は飲み込めた。


倒れちゃったのか。


元々貧血気味ではあるけど、それほど酷いものでもないし、意識を失うほどというのは初めてだった。


深く溜息をつくと、瞼の上から軽く目をこすった。
カーテンの隙間から差し込む光が明るい。


朝なのか。
そう思った途端に更に貧血が進行するような錯覚を得た。
慌てて布団を跳ね除けて起き上がる。


「しごとっ…!」


手荷物の所在を目で探すと、傍のソファで長く足をはみ出して横になる藤井さんに気づいた。

私の声で、起こしてしまったか、目をこすりながら掠れた声でいう。


「あー…携帯悪いけど勝手に見て、店長に連絡いれといた」


おきあがると、軽く伸びをした。ソファで身体が痛かったのか、眉を顰めて首をコキコキと鳴らす。

当然だ、あんなソファに納まる体躯じゃない。


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