恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
こんな遅い時間から、どこかに出かけるのか。
ボア付きのダッフルコートを来た狭山は少し幼く見える。


くしゃっと作った笑顔が外灯で照らされた。
何げなく片手を挙げ合うと、彼女がくるりと背を向けて歩いていく。


「なんだ、出かけるんじゃないのか」


家から駅に歩いてきて、ここでUターンしただけの無意味な行動のように見えて、苦笑した。


「あの。おっかけなくて、大丈夫ですか」


三輪さんが、困惑したように俺と狭山の背中を見比べる。


「先輩と狭山さんが、今どうなってるのか知らないですけど。私と一緒にいて、良い気はしないと思うんですが」


ああ、と三輪さんの心配の意味が飲み込めて、俺は軽く頭を振った。
狭山の後ろ姿が、徐々に遠ざかってもうじき消える。


「大丈夫だろ。そんなこと、気にするタイプじゃないし」


気にする間柄には、結局ならなかったわけだし。
かといって、ここでこれ以上立ち話をする理由もない。


「じゃ、お疲れ」


お互い軽く会釈して、俺は狭山の背中を追った。
追いかけるといっても、近づくわけではないけれど。


随分遠くに闇間を縫ってちらちらと、先ほど見た暖かそうなコートの後ろ姿が見えて。


普段、屋内で仕事をしていれば感じないけれど、通勤の時だけは季節を感じることができる。
いつのまにか、吐く息が白く浮かぶ季節になった。


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