恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
結局足を早めて追いつくこともせず、三叉路で彼女が右に曲がるのをずっと後方で見送って、彼女も一度も振り向くことはなく。


なんなんだろうな、これ。
気軽に声をかけることも、できなくなった。


自宅に着いて、台所で水を汲んで飲んだ。


飯は…腹減ったけど面倒だな。
スーパーでなんか買ってくりゃ良かった。


台所の端には、タッパーが洗って置いてある。
不揃いなじゃがいもがごろごろ入った、肉じゃが。


が、入っていた、タッパー。


家に返しに行くのも躊躇われて、かといって職場で簡単に返してしまうのも寂しい気がして。


いや、そうじゃなくて。


婆ちゃんが昔言ってたんだよ、借りた入れ物には何か詰めて返すのが礼儀だとかって。
何入れようか、考えてたら遅くなっただけで…。



「阿呆か俺は」



誰に向かって言い訳してんのか。

未練たらたらだ。


タッパーを手にとって、指で軽く弾いたら、少し間抜けな音が鳴った。


「何、詰めるかな」


常温で、保存ききそうなヤツ。何かあったっけか。

食品棚の戸を開けた。


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