恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「否定なんかしてないだろ」

「したじゃん、今。だから、いいって言ってるのに、なんで」


なんだか悔しくて。


爪が手のひらに食い込むくらいぎゅっと握り締めていたら、右の拳に一回り大きな手が重なった。


「違うって。ちょっと待て」


腹立ち紛れに、手を引っこ抜こうとしたけれど、その都度強く握られて放してはくれなくて。


諦めた私は、ふん、と鼻で息を吐いて下唇を噛み締めた。


「そうじゃなくて、子供のことじゃねぇ、ごめんっていうのは。あの時の」

「…あの時?」

「俺の身勝手で。酷いことして、悪かったと思ってたから。ずっと」


私は眉根を寄せた。
いや、あの時ってのは、あの時のことなんだろうけど。


「…確かに、あの時、なんだけど。でも別に、気にしないでいいって言ったでしょ」

「いや、気になるって。ましてそれで…」

「本気で抵抗する気なら股間蹴っ飛ばして頭突きでもかまして逃げれるよ私は」

「……。」


私が逃げなかっただけ。
いつもより少し感情が込み入って、気が回らなかっただけのこと。


相変らず手は握られたまま、お互い沈黙で暫く見つめあった。
だけども、妙な気まずさもあって。


笹倉の顔、なんか変だ。
きっと私も、変な顔をしてる気がする。


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