恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
ぎゅっと胸を掴まれたような感覚がした。
言われるとは思ってたけど、話の流れが急カーブだったから。


笹倉の顔は、けれど色っぽいものではなく。


どちらかといえば、仕事中の飄々としたいつもの顔で、さきほどまでの情けない表情から一転したことには違いない。



「…えっと。話聞いてた?」

「聞いてるよ、子供のためならそれがベストだろ」

「もし他に好きな人できたらどうすんの、取り返しつかないじゃない」

「それは俺らに限ったことじゃない」



確かに、浮気して離婚する夫婦なんて世の中には巨万といる、けど。


不意に笹倉の手が緩んで離れていく。
彼はゆっくりと足を組んで、椅子に背を預けた。



「何、一緒に子作りしときながら子育てはさせてくんないの」

「こづっ…くり…」



その言い方。


急に周囲が気になって視線を走らせるけど、このオープンスペース周辺は人が少なく聞かれているような事はなかった。

その辺から既に、恵美の計算のような気がする。



「お前はどうしても、俺の恋愛事情が気になるんだろうけど」

「そうだよ、この先結婚したいって人に出会うかもしんないのに…」


< 304 / 398 >

この作品をシェア

pagetop