恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「うっさいな」

「あ、みてみて。不動産屋」



通りがかったガラス戸に、一面に貼られた間取り図を指差した。
二人一緒に、足を止めて向き直る。



「家どうすっかな。家族増えたら手狭だしな」

「私一戸建てがいい。新築じゃなくていいし賃貸でもいいから」



団地育ちだからか、一戸建ては昔から憧れだった。
ざっと目を通すけれど、殆どはマンションやアパートのものばかりで、張り紙の隙間から中を覗こうと少し背伸びをした。


貼ってあるのはごく一部だろうから、中に入って聞けば、きっと一戸建ての賃貸もあるはずだ。



「…ちょっと入って見る?」



斜め上を見れば、笹倉は何か思案しているような表情で。



「いや。やめとこ」

「なんで?家も引っ越したいって言ってたでしょ」

「一戸建てなら、買ってもいいなと思って」



言いながら私の手を引っ張ってまた歩き出す。



「えっ…買うって、家を?簡単に言い過ぎじゃない?」

「住宅ローンくらい組めるだろ。嫌なの?」

「買う!結婚式しないから買う!」

「式すんの嫌なんだろ」

「うん」

「お前はほんと変わってんな」



くしゃりと破顔した笹倉は、何故か少し嬉しそうだった。


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