恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
電車に乗っている間に、なんとか気持ちは落ち着いてきて。
それでも、駅からはバスは待っていられなくてタクシーで病院に着いた。


看護婦に場所を聞いて、案内された廊下の先に長椅子に座っている美里の母親を見つけた。



「お義母さん、美里は?」

「あっくん!今、分娩室の中なの。恥ずかしいから私は入らないでって言われて此処で待ってるんだけど…」



………あっくん?



少し突っ込みたくなったが、美里を「みぃちゃん」と呼ぶ人だしな、と納得して分娩室の扉に目を向けた時。



「っぅぅうああぁ―――っ!」



その向こうから聞こえた悲鳴に、一瞬体が硬直した。



「ちょっと前くらいから、こんな声なの。大分キツくなってきたみたい」



流石、出産経験者だからだろうか。
心配そうにはしているが、美里の母親は俺よりもずっと落ち着いて見え、俺には不思議だった。


人間の、こんな本気の悲鳴を聞いたのは初めてかもしれない。
そこまで耐えないと、産まれないもんなのか?


そう思うと、その痛みを想像もできない俺が簡単に立ち会うなどと言って良かったのか、不安になった。



「旦那さん、こられました?奥さん呼んでますよ!」



扉が開いて、割烹着のようなものを羽織った看護婦が顔を出す。
視線が合うと中へと促され、言われる侭に分娩室へと足を踏み入れた。
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