恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
腹部に強い収縮を感じて、また陣痛が来ることを予感した。
またか、と恐怖は感じたが。



「大丈夫」



と呟いて、下唇を噛み締める。
力を込めやすいように、握り合った手を逆手に持ち替えた。



――― そうだった。 
   もう少し、がんばらなければ。



私がいなければ、本当に泣き出してしまいそうなこの人の。
家族を。





それから、何度目かの痛みの時。
もう何度目かの、『最後の踏ん張り』



「ぅぅうああぁっ!」



身体の中心を通る痛みから急に解放されて、足先から一気に血が通い抜けるような。
例えようもない、浮遊感を感じた。


まるで、子猫の泣き声みたいな産声がして。


何度も、深く息を吐きだした。
なくなっていた指先の感覚が、ゆっくりと現実に戻ってくる。



「………出た!やっと出た…っ」



ぶっちゃけ、それが正直な感想。
やっと終わった、と、とてつもない開放感。


全身の力が抜けたところで、握り合った手だけが緩まないことに気がついた。
荒い息を整えながら、枕元の彼の横顔を見る。


目を見開いたまま放心状態の彼と目が合った。



「瑛人?大丈夫?」

「…え、あ。終わった…な」

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