恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
医師が私の足の間から、声をかける。
赤ん坊は、助産師の手で処置を受けている様子だった。



「ごめんねぇ、笹倉さん。うまく誘導できなくて、最後力んじゃったから裂けちゃったわね」

「あ…。最後、ベリって、なんか変な感覚がした。あれやっぱりそうだったんだ」

「は……裂けた?べりって…」

「ちゃんと縫合しとくからねー、大丈夫よー」



私と医師の会話を、復唱して青褪める瑛人がおかしくて。
今にも卒倒しそうだった。



「はい、お父さんから抱っこしますか?」



私達の目の前に、助産師が初着に包んだ赤ん坊を連れてきた。
白い布から、赤黒い小さな手や足が覗いているのが見える。



「え、俺?」

「……ぶふっ」



我慢出来ずに、吹き出した。
さっきから、『あ』とか『は』とかそんなんばっか。



「動揺しすぎ」

「…んなこと言ったって」



助産師が赤ん坊を手渡そうと待っているのに、未だに私の手を固く握ったままの手を私からゆっくり解いた。


いつもは器用になんでも熟す手なのに、怖々と赤ん坊を受け取る様はぎこちない。



「………ちっさ」



ずっと硬ったままだった彼の唇が漸く呪縛が解けたみたいに微笑んだ。


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