恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「一度渡された名刺、突っ返すとかする?社会人なら」



くっ。
思わず握りつぶしそうになったけれど、ここは売場だ。


仕方なく、制服の胸元にねじ込んで商品をお渡しする。
もう、早く追い返してしまおう。


話し方から仕草から、上から目線も手伝って、兎に角癪に触る。



「ありがとうございました。またどうぞお越し下さい」


問答無用で最敬礼のお辞儀をし、そのまま男が帰るまで起きない覚悟だった。


「ありがとう」


思いのほか、すんなりと男の靴が視界から消えたので、拍子抜けしながら身体を起こした。


その去り際。



「この時間なら早番か中番くらいだよな?」



だったら18時くらいか、と呟きながら歩き去る。私はといえば、その長身の後ろ姿を、唖然として見送るしかなく。



「なんで勤務形態知ってんの?」



嫌な予感しかしない。
胸元から名刺を引っ張り出して目を落とす。


「藤井 暁 ワイン事業部営業」
百貨店にも取引で出入りしているのかもしれない。
だから勤務形態に予測もつくのだろうか。



「くれはちゃんってなんですか?」

「恥ずかしいからもうヤメテ」

両手で顔を覆った。



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