恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「褒め言葉には聞こえないなぁ」

「さっぱり褒めてませんから」


出入り口の傍ら、機嫌の悪さも手伝って、私の切り返しは気持ち良いほどスピーディ。
快感すら覚えそうだ。


ふと、藤井さんが苦笑した、それは何故だかいままでと違って嫌味のない声だった。



「再会出来て、これが君の言う縁かなと思ったんだけど」

「……そんな顔したってダメですよ。下世話な会話繰り広げてた女をちょっと誂うくらいのつもりでしょ」

「まぁそのつもりなんだけど。どこで食事する?」

「は……」



殊勝な顔は一瞬の出来事で。
取り繕うこともしない男に、呆れて肩の力が抜けてしまった。


なんだろう……この人と話すと酷く疲れる。


憚ることなく、深く溜息を落とすと、きっぱりと断言する。



「今日は友人と会うので。失礼します」

「何時から?」

「何時って……」



思わず詰まってしまった。
閉店まで待たなければいけないことを知られたら、ほんとに着いて来られる。


それが隙となってしまい、彼はにっと唇を歪めた。



「時間あるんだ。じゃあ、近場で食事しよう。勿論奢るから」



言い終わらないうちに、片手を掬い上げられた。
そのまま手を繋いで歩きだそうとするものだから、何か言い返さねばと、口を開きかけた時。



「まじで奢りですか。ラッキー」



振り向けば、惚けた顔の、笹倉がいた。


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