シルティアの魔術師
姫君は、タートスの体をゆっくりと抱き起こします。


「やはり…ニーズヘッグはあなたをそこまで蝕んでいたのね…。ニーズヘッグの契約条件は憎しみの心。それが無くなればー」

「…言ったはずです。後悔は、していないと…。」


タートスがうっすらと目を開きます。
その目はもはや、弱々しい光を放つのみでした。


「それよりも姉上…私から、離れて…下さい。おそらくもうすぐ…私はニーズヘッグに取り込まれ、私は私で無くなる…。」


タートスはそう言うと、静かに目を閉じます。
その表情は、不思議な程に平安に満ちておりました。


その瞬間、姫君のタートスを抱く手に力が入ったように見えました。
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