君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
泣いていることに気付かれたくないんだろう。

そう思った俺は、気付かないふりをした。


「さっきの田所部長、女好きで有名なんだ」


「えっ?」


櫻田に伝えた。田所部長の素行。世の中にはバカな営業マンがいるってことを。


「だから櫻田を営業に連れていかなかった。お前なんて飢えた雄たちの餌食になるのは、目に見えていたからな」


「餌食って...」


なんだよ。さっきまでそんな現状にいて、信じられないのか?
自覚がなさすぎだ。


「現にそうだろ?結局犠牲になるのは女なんだ。...いつもな」


ふと、懐かしい顔が頭を過る。


それと同時に昔の記憶がプレイバックされる。

なんで今、あいつとの記憶が甦るかな。


慌てて記憶を胸の奥にしまいこみ、言葉を続けた。


「まぁ、だからだ。俺が櫻田を営業に連れていかなかった理由」


少しは気持ちが晴れたか?
そんな思いを込めて櫻田を見つめていると、いつの間にか櫻田の瞳からはまた涙が溢れていた。

さっきとは違い、隠そうとはせず。その姿に、視線を奪われる。

櫻田の大きな瞳から一筋の涙がこぼれる姿が、なんとも言えない気持ちにさせられる。

どうにか視線を引き戻し、俺はティッシュボックスを差し出した。


「分かっただろ?...だから泣き止め」


「えっ?」


おいおい、本当に無自覚だったのか?

急にティッシュを差し出した俺に、まるで気付いていない様子。

だけど無自覚とはいえ、流れる涙にさすがに気付いた櫻田は、慌てて涙を拭う。


やっとかよ。それに俺、ティッシュ差し出したっつーのに、意味ねぇじゃん。
自分自身を嘲笑いながら、ティッシュをしまおうとしたが、ふと視界に入った櫻田の手を見て、その動きは止まってしまった。


櫻田の手が震えていたから...。


そう、だよな。きっと怖かったよな。無事だったとはいえ、喰われるところだったんだから。


「悪かったよ、本当に。怖い思いをさせちまって」


「ちがっ...!」


「えっ?」


謝った俺に対して、なぜか否定的な言葉を出す櫻田。


そして何かを訴えるように俺を見つめるその瞳にまた、釘付けになる。


「櫻田...?」


やっと出た言葉に、櫻田は意を決したようにゆっくりと話し出した。



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