2LDKの元!?カレ

 会社から外に出ると、ちょうど目の前の信号が赤に変わり、私たちは横断歩道の手前で足を止めた。

西の空の夕焼けが、緩やかに重なり合う暖色のコントラストをつくり、帰路を急ぐたくさんの背中をオレンジ色に染めている。

編集部に異動してからは、こんな時間に退社することなど皆無で、たまには明るいうちに帰宅してみたい。そんなことをただ、ぼんやりと考えていた。

「志保子さん、行きますよ」

目の前の歩行者信号は、いつの間にか青へと変わっていた。西野くんは私の手を取るとゆっくりと歩き始める。

「志保子さん、今日は何時まで仕事をしてくつもりですか?」
「そうだね、終電ギリギリまでかな」
「……今日、志保子さんのマンションにいってもいいですか?」
「うちに?」

西野くんは繋いだ手を握りなおすと、私の顔を覗き込む。

「少しでも一緒にいたくて。ダメ、ですか?」

そう聞かれて私は慌てて頭を横に振った。

「ううん、そうじゃなくて」

もう、話さないわけにはいかないのかもしれない。

「実は同居人がいてね、だから今日突然うちにくるっていうのは難しいかな」

今の現状をどう説明すればいいのか悩んで、結局曖昧な返答でごまかした。

そうすることに後ろめたい気持ちはあったが、嘘はついていない。

私にとっての聡は、同居人以上の何者でもないのだ。

だから、何も知らない西野くんに対して、馬鹿正直に話す必要もないのだと自分に言い聞かせた。

「……ごめんね」

すると西野くんは少しだけ眉をよせ、考えるそぶりを見せるとゆっくりと口を開く。

「……そうですか。じゃあ、オレのアパートに。それならいいですか?」
「うん、そうさせて」

一緒に住んでいる人間がが男か女か、聞かれなかったのは幸いだった。私は密かにホッと息をつく。

それから目的の店に到着すると食券を買い、出来立ての牛丼を二つ持って編集部へと戻った。


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