2LDKの元!?カレ

「――志保子?」

その声に振り向くと、そこには聡が立っている。

こんな時に会ってしまうなんて、なんてタイミングが悪いのだろう。

「……聡」
「志保子。やっぱりそうだ」

駆け寄ってきた聡に腕を掴まれた私は、そのまま端の方まで連れて行かれた。

「どうしてこんなところにいるんだ」
「……ああ、うん。ついうっかりしてて、気が付いたら三茶の駅だったの」
「ついうっかり?」
「うん、そう」

聡は訝しげに眉を寄せる。

「それが本当ならいいが。顔色もすぐれないようだし、仕事で何かあったんじゃないのか」

図星をつかれてしまった。私は迷わず嘘をつく。

「ううん。聡が思うようなことなんてないよ。仕事は順調そのもの。だからね、心配しないで」

「そうか、それならいいんだ」

聡は微笑んで、私をまっすぐに見る。

そんな彼の瞳は、私の陳腐な嘘など簡単に見破ってしまいそうな気がして。

堪らずに目をそらした。

「……それじゃあ、私帰るね」
「帰るって。もう終電は終わってしまったし、どうやって帰るつもりなんだ」
「えっと。仕方がないから渋谷あたりまで歩いて、そこからタクシーでも拾うよ」

いいながら歩き出そうとすると、突然目の前の視界がぐにゃりと歪んだ。

ふらふらとよろめきながら数歩前へは出たが、ひとりでは立って居られなくなった。

倒れこんだ私を抱きとめたのは、聡だっただのだろうか。ひどく気分が悪くて目を開けることができない。

ただ、感じることができるのは、泣きたくなるくらい懐かしい体温。

心地よい温もりに包まれて私は、薄れゆく意識を手放した。


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