2LDKの元!?カレ
「ちょっと、西野くん」
不思議と嫌悪感はなかった。
ただ、こんな姿を編集部の誰かに見られでもしたら、面倒なことになる。
そう考えた私は、彼の胸に両手をついて離れようとした。
けれどそれが叶わないどころか、さらに強い力で抱きしめられてしまう。
上品に香るフゼア系の香水は聡と同じ。伝わってくる体温も、背中に回された手の大きさも、すべてが違うはずなのに。
私は西野くんにほんの一瞬、聡を重ねてしまった。
もうこんなふうに抱きしめられることなんて、ないというのに。
いい加減、忘れなきゃダメだ。だって、こんなにも胸が痛い。
やがて西野くんは抱きしめていた腕を緩めると、目を合わせるように屈んだ。
「チーフ。オレと、付き合ってください」
「…………いいよ」
そう答えたのは、元カレのことを忘れたいからじゃない。西野くんのことが好きだから。
そして、これからもっと彼のことを好きになれる予感がしたから。
だから。
「……や、った」
西野くんはほんの少しだけ泣きそうな顔をしたと思ったら、最高のご褒美をもらえたと言ってとっておきの笑顔を私に向けてくれる。