飛べない天狗の僕ですが。
 

 教科書をしまって教室を出る。今日の授業はこれですべて終了だ。部活に向かう友人たちを見送り、僕は屋上へ向かった。屋上へと続く階段を昇り切る直前、母から電話があった。

 出入り禁止となっている屋上へは静かに行きたいので、一度戻って教室前の廊下で通話ボタンを押した。




 「もしもし、圭一?学校終わった?」

 「今終わったよ」

 「お父さんが今迎えに行ってくれてるから、時期に車が着くわ。そのまま学校で待ってて頂戴」

 「わかった。ありがとう」





 通話を切って、再び階段を昇る。鍵を差し込んで回した。おかしい。鍵のあく感触がない。もしかして、あいてる?まさか、僕以外に誰かいるのだろうか。

 慎重にノブを回し、静かにドアを開けた。カチャリと小さな音がしてひやりとしたが、外には誰もいなかった。爽やかだけれど、しっかりとした風が吹いているだけである。



 「巡回の先生がカギをかけ忘れたのかな」




 つぶやきながら、屋上を見渡してはっとする。無駄に広々とした屋上の1番端
、水を貯めるタンクの上に女の子が立っていた。風になびく長い黒髪には見覚えがあった。たしか、転校生の……、小宮百合子。

 2つ隣のクラスに先月転校してきた子だ。すらりと細い色白の美人で、話題になったのだ。僕も、騒ぎに同上して彼女の姿を見に行ったので覚えていた。






 

< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop