オクターブ ~縮まるキョリ~
その日の六時間目はホームルームだった。
花井先生が眼鏡を持ち上げながら言う。
「えー、何名かから希望があったので、今日は席替えをします」
悲鳴と歓声が同時にあがる。
悲鳴をあげたのは、春瀬一輝の席の近くにいる女子たち。
歓声をあげたのは、春瀬一輝の席の遠くにいる女子たち。
たぶん、後者の子たちが先生に席替えをせがんだのだろう。
私は自分のこの席がわりと気に入っていただけに、ちょっとガッカリした。
でも、そんなことを思っている間にも、先生はくじ引きの用意を進める。
「視力が悪くて前の席に行きたいという人は、こっちの封筒からくじをひいてください。
こっちは前の方の座席番号が入ってますので。
他の人はこっちからです」
花井先生は両手に封筒を持ち上げると、出席番号1番の子に目で合図をした。
1番の子は勝手知ったるという感じで席を立ち、くじを引く。
順番にみんながくじを引き、自分の新しい席を確認する。
私も自分の番にくじを引く。
視力は悪くないから、後ろの方の席の番号が入った封筒から。
封筒の中で何枚かの紙切れが指に触れる。
どれにしようか迷いながら、ひとつの紙切れを取り出す。
紙切れを開いて、番号を確認して、席の順番を数える。
1、2、3、4…
「あれ?」
私が取った紙には、私の今の席の番号が書かれていた。