オクターブ ~縮まるキョリ~


椅子に座った永山くんは、早々に音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳に突っ込む。
席がどこであろうと、自分の世界は自分のもの。
そう主張するかのようにして、永山くんは机に突っ伏してしまった。
あまり周囲の物事に興味を抱かない様は、やっぱりクールな武士みたいだと思った。


「一輝、よろしくね」


「お!よろしくー!」


会話が聞こえてきて、後ろを振り向く。
春瀬くんの後ろに座ったのは……


「明日歌……」


私の昔からの友人だった。


明日歌は私の方をちらりとも見ず、席に座ると春瀬くんとのお喋りを続けた。


「あたしさ、一輝の後ろなんかに座ってたら他の女子達に恨まれそーかも」

「なんだよそれ、そんな子いねーって!」


「恨まれそう」なんて言いながらも、明日歌の表情は楽しそうだった。
春瀬くんの近くに座れてすごく嬉しいんだろうと、誰が見ても分かる。


「いいなー、私も春瀬くんの近くがよかったなー」

「ねー。春瀬くんもさ、なんであんなケバいギャルと仲良く話してるんだろうねー」


女子達のひそひそ声が聞こえる。
明日歌は「自分のことを言われた」と察し、女子達をキッと一睨みした。
こそこそと話していた女子達は同時にビクリと肩を震わせて、慌てて別の話をし始める。

< 23 / 107 >

この作品をシェア

pagetop