オクターブ ~縮まるキョリ~
「…ふたりとも、どうしたの?大丈夫?」
向かい合って立ち尽くしたままの私たちを見て、先生は心配そうに言う。
「…あ、もう大丈夫です。教室帰ります」
「そう?じゃあそこにある『保健室利用者名簿』に名前だけ書いておいて」
「わかりました」
私は机にあったノートに、自分と永山くんの名前を書く。
だが、『永山』まで書いたところで、私の筆は止まってしまった。
「…ごめん、永山くんの下の名前って、どういう字だったっけ?」
本当は、漢字どころか名前自体も思い出せなかったのだけど。
でも、この前、CDショップで会った時も名前を聞いてしまったから、また聞くわけにはいかなかった。
「『颯爽』の『颯』に『平』で、『そうへい』」
「さっそう……ごめん、どういう字?」
「『立つ』に『風』」
永山くんは、言いながら宙に字を書く。
私のたびたびの質問に、いやな顔ひとつせず。
「『立つ』に『風』かぁ…なんか爽やかでいいね」
「ありがと」
永山くんはそう言いながら、ふいっと顔をそむける。
名前を褒められるのが、いやだったのかな。