オクターブ ~縮まるキョリ~


「失礼しましたー」


私と永山くんは、そう言って保健室を出た。
風に押された扉がバタンと閉まる。


「……ねぇ、さっきの続きなんだけど…」

「ん?」

「春瀬くんが、何か言ってたのか、ってこと」

「…ああ」


まだその話をするのか、といった感じで、永山くんは少し気の無い返事をした。
あんまり問い続けるのは良くないかもしれない。
でも、私自身に関わる話だったから、どうしても知りたかった。


永山くんは無言のまま歩を進める。
だから、私もこれ以上しつこく聞くことは憚られた。
気にはなるけど、「言わない」と決めたら絶対に言わなさそうな人だから。
永山くんは、きっとそういう、武士だから。


廊下を突き当り、階段を昇る。
一段一段、ゆっくり昇る。
踊り場まで来たところで、前を歩く永山くんがふいにこちらを振り向いた。



「……詩帆」



そう、私の名前を呼んだ。

私の、下の名前を呼んだ。


開け放たれた窓から、ひゅうっと風が入ってくる。
私のTシャツの裾と、永山くんの制服のシャツの裾が、同じ方向に揺れる。

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