オクターブ ~縮まるキョリ~


パッと香織の方を振り向くと、彼女は満足そうにうんうんと頷いていた。


「良かったじゃん!詩帆の想い人もC組だよ!」

「うん…って、別に想い人じゃないって!」

「えーなんで?好きなんでしょ?春瀬くんのこと」

「いや、でも想い人ってわけじゃ…」


確かに、春瀬一輝のことは好きだ。
でもそれは、みんなが言うような恋愛の「好き」ではなくて、人としての「好き」であって。
言ってみれば、私は彼のファンなのだ。


春瀬一輝にファンは多い。

何故かというと、そう、まず「超」の付くイケメンであることが理由に挙げられる。
入学式では上級生(主に女の先輩達)がざわつく程の目立ちっぷりで、私は最初、芸能人でも居るのかと勘違いしたものだ。
雰囲気は爽やかで、キリッとした目元が人を惹き付ける、好青年の顔立ちをしている。


性格も明るくて、男女共にとにかく友達が多い。
陸上部でも活躍していて、去年は地区大会で入賞したとかで表彰されていた。


ここまで揃っているなら、「頭が悪い」
とかのハンデがあってもいいものだが、神様は不公平だ。
彼は勉強もできるらしい。
漫画の登場人物のような人が、この世には存在するのだ。


「詩帆も素直じゃないなぁ…好きって認めちゃえばいいのに」

「だから、違うってば…」

「そーお?名前見たときの反応、恋する乙女だったよー?」


香織は私の脇腹を肘で小突く。
と、その時、鐘の音が校内に響いた。


「やっば、チャイム鳴っちゃった!早く行こ!」

「あ、待って!置いてかないで!」


香織は昇降口へ向かって走っていき、私も慌ててその後を追った。
勢いで風が生まれ、足元に散った桜の花びらが、ふわりと舞い上がる。


春は、やはり私のところにもあった。

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