オクターブ ~縮まるキョリ~


「だからさ、アタシたちに感謝しなって。ほら、『ありがとう』は?」

「…………」


私はぐっと唇をかんだ。
ありがとう、なんて言うもんか。
こんなところまで連れてこられて、意味不明に責められて、どうしてそんなことが言えるのだろう。


「……あんた、マジで自分の立場わかってないんじゃないの?」

「痛い目みないと分かんない、とか?」

「……黙ってるってことは、そういうこと?」


言った真ん中の彼女が、ジャリ、と足元で音を立てて私に一歩近づいてくる。
痛い目ということは、私のことを、殴るつもりなの?
それとも、蹴っ飛ばすつもり?


応戦するような度胸も技量も無い。
私は動きづらい浴衣で、小さく一歩後ずさる。


後退した瞬間、急に恐ろしくなってくる。
言われたことに反論はしていたけど、一足引いた途端に、突然自分が「弱者」の立場に立たされているような実感がした。


彼女が、もう一歩踏み出す。


私が、もう一歩、後ずさる。


その、瞬間。



「何やってんの?」



背後から、声が掛けられた。


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