オクターブ ~縮まるキョリ~
永山くんは彼女たちが走り去った方向を一瞥して、それから私に向き直った。
冷え切っていた目線は、いくぶん穏やかになっていた。
じっと目を見られて、私はその場から動けなくなってしまう。
「大丈夫?」
先に口を開いたのは、永山くんの方だった。
「う、うん。あの、ありがとう。」
何はともあれ、私はまずお礼を言ってぺこりと頭を下げた。
ちょっと無茶なやり方だったけれど、それで永山くんに助けられたのは間違いないから。
付き合ってるだとか、彼女だとか、とんでもない発言だったけれど、それが私を救ってくれたから。
ふたりだけでその場に残されて、さっきまでとは違う緊張が段々と溢れてくる。
『詩帆を泣かせるやつは、女であろうと容赦しない。』
目の前の男の子がそう言ったのかと思うと、心臓がバクバクした。
私をかばうための方便だと分かっていても、そんなことを言われるのは初めてのことだったから。
何だか、油断すると勝手な期待が先走りしてしまいそうだった。
もしも……
もしも永山くんが、本当にそう思ってくれていたのだとしたら……。
永山くんのまっすぐな瞳は、私から少しも逸らされない。