オクターブ ~縮まるキョリ~
「…春瀬くん、知ってる?線香花火の燃え方って、それぞれ名前が付いてるんだよ。」
私は記憶を残したくて、唐突に話を振る。
ずっと黙っていると、記憶がどこかに吸い込まれてしまいそう。
「へえ、そうなの?」
「うん、最初に火がついて赤い玉が付いた時が『蕾』。少しずつチラチラ火花が散るのが『牡丹』。
今みたく一番盛り上がってるのが『松葉』で、最後が『散り菊』って言うんだって。」
「へえー、風流だな。」
「ね、なんか『和の心』って感じだよね。」
「うん、樫原って物知りなんだな。」
「そんなことないよ?たまたまこの前、テレビで見たの。」
「ふーん…ねぇ、もっと色々教えてよ。」
「え…って言っても、花火のこと他にはよく知らないし…。」
「じゃあ花火じゃなくて、なんでもいいよ。そうだな…そしたら、樫原のこと教えてよ。」
「わ、私のこと?」
「うん、たとえば……」
春瀬くんはそう言って、私の眼をじっと見る。
「……樫原は、永山と付き合ってるのか、とか。」