あなたは笑顔で…
最後
バタバタと動き回る人たちを、空っぽの心で見つめる。
どうしても、現実が受け入れられない。
まだ、現実だと思えない……
あれから、周りにいた誰かが病院に連絡してくれて、今、私は病院にいる。
慌ただしく光が運ばれていったのを、ぼんやりと見つめていた。
……夢?現実?
……夢のような現実。
だってまだ……
そっと唇に触れれば、まだあの温もりと柔らかさが残っている。
それに……
視線をずらせば、私の手の中には光の眼鏡。
これが、嫌でも現実だと私に知らしめる。
「華ちゃん」
「あ……」
ぱたぱたと小走りでこちらに来たのは、病院で知り合った一人の看護師さん。
「光は……?」
声が、震える……
怖い……聞くことが怖くてたまらない。
でも、私は聞かないといけないわ。
「……もう、光くんとは会えないと思った方がいいと思うわ」
「そう、ですか……」
それは暗に、もう光は目覚めない。
光には会えない、ということ。
すっと、心に入ってきた変わることのない現実。
……分かっていたことだったのに。
こんなに苦しくなるのは光があんなことを言ったからだわ。
「光……」
ぎゅっと手の中にある眼鏡を抱きしめる私を、目の前の看護師は悲しそうに見ていた。
「……華ちゃん。もしよかったら、光くんのそばにいてくれないかしら?」
「え……?」
「無理に、とは言わないわ。誰だって、大切な人の死を見るのは辛いものね」
確かに、辛いわ。
今の私には分かる。
でも………
「お願い、してもいいですか?」
「えぇ。……華ちゃん、ありがとう」
「いえ……私には、そうする義務がありますから」
それが、きっと光が私に望んだことだと思うから。