君のところへあと少し。

40

「課長、ちょっといいっすか。」


月曜日。午後。
営業から戻ると朝から居なかった課長が社内にいた。

「何だ?」
「プライベートなことなんで。」

ふたりで席を外し、喫煙ルームに入る。


「ハルちゃんのことか?」

聞くまでもなく、河内の方から切り出してきた。

「はい。あいつはオレのなんで、口説くの辞めてもらえませんか?」

「オレの、かぁ。いいね、初々しいよな。でもまぁ、フラれたんだけどね、俺。ハルちゃんが、お前がいいって言うからさ。」

ニヤリと笑い、煙草をふかす。

「すみません、オレもあいつじゃないと嫌なんです。」

「また随分ハッキリというねぇ。諦めるつもりはないんだけどな。欲しいと思ったモノは手に入れる主義なんで。ただ、ハルちゃんに嫌われたくないから引き下がったけど。」


社会的地位。
年齢。
経験値。

なにを取っても自分より数段優れた河内。
彼がハルを好きだというのは驚いた。
周りには綺麗どころがたくさんいるのに。
何もハルじゃなくてもいいじゃないか。


ぐっと唇を噛んで思案する。

早く、自分のものにしてしまわないとうっかりしていたら、河内に盗られてしまうかもしれない。

「オレのオンナです。ちょっかいかけないでください。じゃ、失礼します。」


まるで自分に言い聞かせるような言葉。


ーオレのオンナー

オレがオンナに変える。


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