君のところへあと少し。

13

あれからしばらくして。

日和はマンションでの生活にも慣れ、特に仕事について否定されなかったのもあって、今までと変わらない生活を送る事が出来ていた。

違うこと、といえば、奏が毎日スーツを着て出かけること、夜遅くまで帰ってこないこと、日和を抱かなくなったことくらいか。

赤ちゃんをー
そう願っていた筈なのに、日和は妊娠しなかった。
何がいけなかったのだろう。
すぐに妊娠する、と思っていたからなんだかやりきれなかった。

その日も奏は日付けが変わってから帰宅した。

ため息を吐きながら、着ていたスーツの上着を脱ぐ。
受け取ってハンガーにかけ、振り向いたら奏に抱きしめられた。


久々の抱擁。


もう1ヶ月は触れ合ってなかったか…。


だけど、一向に動く気配の無い奏に日和は痺れを切らした。

「奏?何してるの?」

何も言わない奏をぎゅっと抱きしめる。

「日和…」
「うん?」
「日和…」
「なぁに?奏?話して?」

「生理…きちゃった?」
「あ…うん。赤ちゃんまだだった。ってこの前話したよ?」
聞いてなかったのだろうか?

「何でかな。ちゃんと日和の中で出してるのに。妊娠しないって、変。」
「そういうの、ホルモンバランスとか色々あるみたいだし、大丈夫だよ?」

でも暫くの間、関係を持ってないから、今は望めない期待だと奏もわかってる筈。


「奏、変だよ。何かあったの?」

「いや…そっか。日和とは最近シテないから、当たり前か。」
…日和とは?

…他の誰かとしてるの?まさか…

「ごめん、疲れてるから寝るよ。」
「奏!どういう意味なの?あたしとは、って…他の誰かとしてるの⁉」
不安が爆発してしまった。

カッとなった奏は日和に手をあげた。


叩かれた頬より心が痛い。

悲鳴をあげて心を蝕んでいく。

「なんだよ、それ!俺が日和以外の女とセックスすると思ってるわけ⁉バカにすんなよ!」
「じ、、、じゃあ何でなの⁈最近の奏はあたしに触れることすらしないじゃない!淋しく無い訳ないでしょ⁉」

毎日淋しくて。
1人眠るのと同じような感じで。
同じベッドで寝ているのに背中を向けられてしまって。
ひとり声を殺して泣く毎日なのに。

触れて欲しい。
奪って欲しい。
自分の中を奏で一杯にして欲しい。

でも、慣れない仕事でキツい思いをしてるだろう奏には言えなかった。

ワガママだとわかっていたから。


「赤ちゃん産めないあたしに用がないならそう言ってよ!」


我慢の限界。


気付いたらうちを飛び出していた。

奏は追ってこない。

もう、終わりなのかな。
赤ちゃん、生みたかったのに。




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