あの日の恋を、もう一度
雪で覆われた道路は、どうも歩きにくい。
何度も何度も、滑りそうになった。
けれども、そんなことは気にしてなんてられなかった。
早く。
早く。
この私のありのままの気持ちを伝えたくて。
「…っ、読んだよ…」
「…うん」
「私、どうしてもこの本が借りたときから読めなかったの」
読んだら、読んでしまったら。
「…最後だと思ったから」
河合との関係が、終わるような気がしてならなかった。
どうしても、最後のこの関係だけは、切りたくなかったの。
私は、『Einmal mehr』を抱きしめたまま、
「『私は、どうしても許せなかったの。私を置いて、遥か彼方の先を行く貴方が』」
「『そんな貴方を見ていると、どうしても、私の中の邪【よこしま】なものが沸々【ふつふつ】と湧きあがってきて。…そんな私と一緒に居たら、夢をかなえた貴方はダメになってしまうと。そう思ったの』」
『Einmal mehr』の、文中の中の女性側の言葉だ。
この気持ちは、私と似ていると思ったから。
だからきっと、知世ちゃんも私にこの本を渡したのだろうと思う。