砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
サクルの前に立ち、アミーンは懸命に払い落とすが……。

落とし損ねた数本が身体に刺さる。だが、アミーンは決して膝を折ろうとはしない。 


「アミーン、引け!」

「いいえ。私のことより正妃様を! この者は私が命に代えましても仕留めてみせます!」


サクルの水脈を探る動きが半瞬遅れた。

その隙を縫って、矢はサクルのほうにまで降りかかる。今度はそれを払うために気が削がれた。


だが何より、今のサクルはリーンのことに心を奪われ、水使いの呪文すら思い浮かばないのだ。


(どうしてだ!? なぜ、こうなってしまった? リーンを愛したからか? 私はこれほどまでに弱く、情けない男だったのか?)


現実に気配を捉えた訳でもないのに、サクルの脳裏にはスワイドに組み伏せられ泣き叫ぶリーンの姿が映った。

リーンを強く思うがゆえの苛立ち、そしてサクルに誓った愛を違えようとした彼女に対する怒り。

様々な思いがサクルの中で渦を巻く。 


「待て、ドゥルジ! 何が望みだ」

「なぁに? “狂王”様があたしに命乞い?」


ドゥルジは可笑しそうに言う。


「取引だ。私は正妃を取り戻したい。お前の望むものを与えよう。――私の名はサクルだ。それを持って地獄の魔王のもとに行け!」


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