砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
だが、『サクルさまのお命に関わると思って、必死で我慢していましたのに……』そう言って泣きじゃくるリーンの姿には、さすがのサクルも可哀相なことをしたと反省する。

抱き合う途中で小休止を挟みつつ、


「危機に陥ったときは迷わず私の名を呼べ。我が王国内あるいは砂漠にいるとき、私の名を呼べばすぐに精霊を通じてお前の居場所を知ることができる。私はどんな敵にも負けぬ。リーン、お前は私を信用しておらんのか?」


サクルの言葉にリーンは必死で首を振り、彼の胸に頬を埋めた。


「本当は怖かったのです。わたしの命などどうでもよい、代わりはいくらでもいる、そう言われることが……」

「愚かなことを。この私に妻は不要だと思っていた。息子はいずれ適当な女に産ませればよい、と。だが、今はそうは思わぬ。お前に息子を産ませたい。他の女ではなく……お前だけだ」


ふたりの身体はいまだひとつに繋がれていた。

そして、サクルがリーンを特別だと口にした途端、彼女の内部に微妙な変化が起きる。


女は女、たとえ処女(アズラー)といえどもさしたる違いはない。ほんの少し前まで、サクルは本気で思っていた。

もちろんリーンを初めて抱いたとき、他の女との違いは充分に実感した。だがその後の、飽きることない行為でリーンのすべてを知ったつもりになっていた。

しかし、彼女の身体は女の奥深さをサクルに教える。


先刻、『愛している』とサクルが言ったとき、彼の分身を包み込むリーンの襞が打ち震えた。

その変化に、サクルは欲望が爆ぜるような快感を経験する。

今も、『お前だけだ』と言った瞬間、リーンの中がサクルを締め上げるように蠢いた。


「リーン……今は、不安はなかろう?」


サクルはリーンの太ももから臀部に手を這わせ、徐々に腰を引き少し楽な体位を取る。


< 124 / 134 >

この作品をシェア

pagetop