砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「私が駆けつけたとき、奴はすでに肉片と化していた。あとは、悪魔たちに利用されぬよう、粉々にするしかなかったのだ。私を恐れるか?」


サクルの問いにリーンは首を左右に振った。


「いいえ……わたしはあんなにもスワイド王子から憎まれていたのですね。悪魔に心と身体を明け渡してまで、傷つけたいと思うほど」


そのまま、サクルの胸に顔を伏せた。嗚咽めいた吐息が肌に伝わり、リーンの悲しみも伝わった。

恩ある主君の息子――そう思って心から仕えていたに違いない。

やるせないリーンの心情を思い、サクルは彼女の髪を撫で、強く抱きしめた。


「サ、クル……さま。あの、レイラー王女は……ご無事、ですよね?」

「おそらくは。レイラー自身が愚かな真似をして危機を招かぬ限り、スワイドのようなことにはなるまい。ただ……」

「ただ? なんでしょうか? 教えてください!」


サクルは一瞬躊躇して、息を吐きながら言葉を選んだ。


「カリム・アリーの出生は以前話したとおりだ。そのため、奴は身分の高い女を嫌悪している。直接害することはあるまいが、妻として連れて戻るかどうかは……五分五分だな」


このリーンに対しても最初は複雑な態度を取っていた。

アリーがリーンと顔を合わせたとき、すでにサクルのもとにはバスィール大公からリーンの素性が明かされたあとだった。


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