砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
リーンは正式に大公の娘として認められた身分。それはクアルン王妃には相応しいが、ろくでもないことをしでかしたレイラーの姉には違いない。

彼女が権力を手に入れたら、どのような横暴を言い出すか知れない……アリーはそう案じていた。

おまけに、サクル自身がリーンに執着し、何がなんでも妻にしようとしているのだ。

“狂王”と恐れられている男だからこそ、愛憎が絡めばどんな愚行に走るかわからない。

愛する妻の言いなりになって、サクルが変わることもアリーは懸念していた。


しかし、涸れ谷に攫われたとき、我が身の危険も顧みず侍女を助けにいこうとしたリーンの姿に、評価を改めたらしい。

さらには、日々、サクルと睦み合って過ごすリーンに、別の思いを抱いたようにも見えた。

 
(よもや、奴がリーンに手を出すことはあるまいが……)


サクルにとってリーンは特別だ。

打算も何もなく、王の側近を名乗ったサクルを慕い、信じ続けてくれた。

万にひとつも奪われてはなるまいと、アリーにはバスィール公国の実権付きでレイラーを押し付けたが……果たしてどう出るか。


(バスィールの実権などどうでもよい、とレイラーを砂漠に放置しかねん男だからな)


サクルの返答に、リーンの瞳は見る見るうちに潤み始める。


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