砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
~*~*~*~*~


パシャン、と円形の大きな浴槽の中で白い羽が水を弾いた。

本来、王と正妃以外の人間が湯殿に入ることは許されていない。だが、今宵は特別にシャーヒーンが使うことを許可された。


つい先刻、サクル王は正妃を連れて宮殿を出発した。

行く先は知っているが、同行は不要と命じられた。何かあれば砂漠の精霊を介して連絡が取れるし、サクルの強い力の波動を感じれば、シャーヒーンにはそれだけで何ごとが起こったかわかる。

シャーヒーンはスワイドを監視し、彼の生死を確認する役目を与えられ宮殿に残った。

それはおそらく、リーンにスワイドの死に様を見せたくないという王の配慮。


スワイドも愚かな男だ。リーンに頭を下げ、王に忠誠を誓えば、命ばかりは救われたものを。

誰の目にも明らかなほど王はリーンに夢中だ。

女の欲深さや陰湿さ、そして、欲しい男を手に入れるためならどこまでも淫猥になれる手管を飽きるほど知っている。そんな王だからこそ、それらを一切知らぬ、身体も心も純粋なリーンに惹かれた。

スワイドやレイラーは、そういった特別な手管を駆使してリーンが王を射止めたかのように誤解している。近隣諸国の者も同じ考えだろう。


だが、クアルンの人間は違う。

王はそのような処女であることを売り物にして、彼を操ろうとする女を何より嫌う。本人の意思でなくとも、後ろ盾があるだけで疎んじるのだ。

そのため、様々な思惑を抱えた娘たちのいるハーレムに近寄らなくなった。


(王都のハーレムで待つ女性たちは、どうされるおつもりなのか?)


何ごとかを神殿の王太后に頼まれたという。だが、さすがのシャーヒーンもその内容までは知らない。


< 66 / 134 >

この作品をシェア

pagetop