神様修行はじめます! 其の三
そしてやっとの事で牛車が前に進みだした。


あたしは牛車から身を乗り出し、凍雨君に手を振る。


「行ってきます!」

「は、はい。行ってらっしゃい・・・」


なんだかホッとしたように手を振り返す凍雨君。


その足元の雪がモコモコ!っと蠢き出した。


――ボコボコボコ――ッ!!


広範囲の雪の中から、次々と無数に飛び出す黒い物体。


「うわあぁぁぁっ!!?」


凍雨君が飛び上がって悲鳴を上げる。


――ズドドド――っ!!


アンソニー率いる目付きの悪いペンギン軍団が、怒涛の進軍を始めた。


その様相たるや、まるで大海を移動するトビウオの大群だ。


水飛沫と見紛うほどの雪煙がモウモウと舞い上がり、視界を完全に覆った。


「アンソニーちゃん達が、先回りして道中の安全を確保してくれるんですわ」


すっごく自慢そうなお岩さん。


「何も言わずに、やるべき事をしっかりやる! これぞ男の中の男ですわ!」


・・・そうだね。

確かにひと言も口はきいてないけどさ。


ある意味、これ以上騒々しい集団もないと思うけど。


あたしは遠ざかる凍雨君を見た。


完全に強張った表情で、硬直したままピクリともせず立ち尽くしてる。


大丈夫かな・・・。

このままちゃんと味方でいてくれるよね? 気が変わって逃げたりとかしないよね?


なんか、心配・・・。


とりあえず、行ってきます。

お願い、ちゃんと待っててね。

< 82 / 460 >

この作品をシェア

pagetop