嘘の誓いとLOVE RING
一番奥の個室へ入ると、大きなため息が漏れた。
こんな調子ではダメだ。
仕事も上の空で、言い合いをした挙げ句トイレに篭るだなんて。
きっと、佐倉さんなら間違ってもしない事だろう。
圭祐に謝らなくては。
自己嫌悪に陥りながら、トイレのドアを開けようとした時、
「唯香も大変ね」
という女性の声がして、思わずその手を止めた。
「やっぱりそう思う?毎日が切ないのよね」
どうやら、佐倉さんと同僚らしき女性の二人が入って来たらしい。
まさか、佐倉さんもこのトイレを使うとは、
いや、もしかすると、この同僚に会う為に来たのかもしれない。
二人は、他に人がいない上、私は奥の個室を使っているから、その存在に気付いていない様だった。
恐らく洗面台で話しているのか、水の流れる音もする。
「唯香は、本当にこれでいいの?」
「良くないよ。だけど、どうしろと言うの?」
何の話だろう?
さっきは、毎日切ないと言っていたけれど…。
「だけど、社長も酷いわよね。普通、自分の奥さんを同じ会社で働かせる?それも副社長秘書として」
その言葉で、会話の元が凌祐の事だと分かった。
「それは責めないであげてよ。お父様である会長命令なの。それも、本当は社長秘書になるところを、私の為に全力で反対してくれたんだから」