なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

「シャワー入ってきますね」

 いまだ電話中なので、返事を聞かずに自分の部屋へ入って、バッグをチェストの上にぽんと置く。

 お気に入りのワンピースだったはずなのに、ミラー越しに見ると今はなぜかくすんで見えて、何故かそこに片桐さんの姿が重なって、ため息が出る。

 複雑な心境。私こんなに人と自分を比べる人間だったっけ?

 背中に手を回して一気にファスナーを落とす。


「疲れた。バスタブにゆっくり浸かって癒されたい」

 

 リビングのソファーに浅く腰掛けて難しい話をしている背中はなんだか遠くに感じて、



 それを視界の隅に捉えて音を立てないようにそっとバスルームへ入る。

 シャワーとともになんだか得体の知れないこのモヤモヤを流し去りたい。


 ヨガしたい。


 こんなときにヨガとは、私はどこまで仕事が好きなんだ。

 仕事...

 今日会った人達ってみんなすごい仕事してるんだなぁ。

 ワールドワイドな仕事だし、北島さんも片桐さんも明後日から仕事でイギリスに行くって言ってたっけ。私のいる小さい世界の中で動いているんじゃなくて、いろいろな世界を見て、そこで戦っているんだなって思うと、



「なんかみんな、すごいなぁぁぁぁ」



 シャワーは出しっぱなしにしている。

 バスタブのお湯は程よく溜まり、そこに入浴剤を入れて、

 潜った。

 頭までぜーんぶね。

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