なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 痛い! と、声を出す暇もなく抱きしめられる。

 あっと小さく声を出した真は一瞬止まったけれど、すぐにトイレに入って行った。

 その誰かは真が歩く方へと顔を傾け、私をその胸の中に隠す。

 すごく甘く、優しく包まれて、私は力が抜けていった。顔は見えないけど、ほどよい力で抱きしめられている私の鼻腔をくすぐるのは、ブランデーの香りだ。そこに少しチョコレートのようなほろ苦さも混じっていて、嫌じゃない。むしろ落ち着くし居心地が良い。

 体をがっちりと包まれているので崩れ落ちないけれど、放されたら崩れ落ちるのは決定だ。

 誰だかわからない人にこんなことされたら、本当ならぶっちぎれてるところだけど、酔っ払っている私はちょっと思考がおいついてこない。

 しかも真のおかげで心臓は血液をドクドクと体中に巡らせ、その勢いでお酒の回りは早くなった。

「出よう」

 耳元で囁かれた落ち着きのある声に私は頷くしかなかった。

 体温が温かい。こんなに温かさを感じたのはいつ以来だろうか...考えなきゃ思い出せないくらい昔のことだ。

 そんなことを考えているうちに、私は瞼を閉じていた。

 私と一緒にいる男の人にマスターが何かを話しかけてたけど、何を言ってるのかまでは分からなかった。

 コートを肩からかけられた。自分のコートだけど、肩にかかるその重みに心が安心する。

 マスターが何か言ってるけど私はへらへらしながら頷いているだけ。

 でもなぜかぜんぜん心配していないようにも見えて、

 そしてそのままバーを後にした。 




 その後の記憶は、そう、だから、無いの。

 で、気付いたらホテルのベッドだったっていう、どうしようもない状況になっているわけだ。


 そして、全裸の男がこっちに向かって来ている。


 昨夜と違うのは、ここで私がおたおたしても、昨日のように庇ってくれる男がここにはいないってこと。

 だって、昨日庇ってくれた男は目の前にいるこの人だから。

 そしてここには私とこの名前も知らない男の人しか、いないのだから。



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