なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「帰ってきたらフロントに言って。そしたらここまで連れてきてくれるから。俺の電話番号すら覚えてないんでしょ?」
「電話番号までも聞きましたか私...」
これ以上恥の上塗りはしたくないんですけれども。泣きそうです。
そんな私を本当におもしろそうに眺めて、肩を揺らしている目の前の人物。
「俺だってちょっとはむかつくからね、電話番号はお前が思い出すまでもう教えない。だから帰ってきたらフロントに言って。ここに来られるから。わかった?」
「いえいえいえいえ、ご迷惑をおかけしまして。もう来ませんからご安心を」
顔の前で手をぶんぶん振ってぺこぺこ頭を下げた。
「それでは失礼します」
せっかく開けてくれたドアが閉まらないうちに私は勢いよく部屋を飛び出して後ろ手にドアを閉め、エレベーターホールに向けてダッシュした。
ここにはきっと二度と戻ってこないだろうし、この人とも二度と会うことはなかろう。
私のやらかしたことは本当にごめんなさいって思うけど、なんせ覚えていないんだから謝ろうにも何に対して謝ればいいのか、分からない。
下へ降りて行くエレベーターの中でコートのボタンを留め、襟を立てて顔を少し隠した。
崩れた化粧を見られるのもいやだったし、フロントの人に会わせる顔すら、無い。
それに、究極に恥ずかしかったから一秒でも早くホテルを後にしたかった。
そうなの、この人、ホテル住まいだったの。
さて、もういいよ、家に帰ろう。
なんだか疲れた。この気分は一晩中遊び回って疲れて帰ってくる猫の心境に似ているんじゃないかと、猫じゃないのに思っちゃう。
真だって心配して起きて待っていてくれているかもしれないし。
淡い期待をこめて、足早にホテルを後にした。