なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

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 帰るところはここしかない。

 鍵は持ってる。

 スタジオにはもう誰もいなくて、暗闇の中に非常灯だけが光っている。

 アロマの香りが充満しているスタジオはそれだけで癒される。

 おでこのまん中から空気を吸い込むイメージで、体の中心、背骨を通って足裏から大地に古い気を流す。


 全部流れてしまえばいい。なにもかも。


 慣れた手順で準備をして、部屋中を温めた。


 ヨガとは心の作用を止滅することで、

 心の作用が止滅された時に、ここに存在している自我は自分本来の状態にとどまることになる。つまり無の境地だ。色眼鏡で物事を見ない赤ちゃんの気持ち。

 トラウマ、背負っているしがらみをとっぱらった無重力な状態。それが本来の人間の有り様で、その状態に近づけていくのが、ヨガの世界だ。


 己の心の揺さぶりに流されてはいけない。いつ何があっても柔軟に対応できるように、常にニュートラルな位置にいなさい。

 と、インドで教わってきたことを思い出す。


 これでもか! ってくらい習ってきたはずなのに、私は何を勉強してきたのか。本当に弱い。


 傷つきたくなくて、それを考えたくなくて、問題から逃げているだけだから。


 勇気を持って立ち向かわずに、荒波を起こさず、ただ過ぎ去るのを待っているだけだから。


 そんなマイナス要素たっぷりの考えが頭に入ってくる。

 それを振り払うように頭を振って雑念を追い払い、ポーズに集中。体幹に意識を向けて目を閉じた。


 ほらね、言ってるそばからまた逃げた。





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