なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

「店長、体験の方いらっしゃいました?」

「今ねえ、着替えてもらってる」

「了解!」

 スタジオ前で待っていると、後ろからすみませんと声をかけられた。

 「はい」と言い、後ろを振り返ると、お互いに『あ』と息を飲むことになった。

 黒いジャージ素材のパンツに白いTシャツで髪の毛を一つにまとめたどすっぴんの女子はどこかで見たことがあった。

 のっぺりとした顔に一重まぶた、鼻はしゅんとしているがひっつめた髪の毛でおでこが全部でているが、見覚えがあった。

 井上さんは、お願いしますと頭を深く下げて、ややしばらく上を、私の方を向かなかった。

 しかし、初めての方ですっぴんを見られるのを嫌う方ってけっこういるので、得に気を止めることもなかった。

 でも、どこかで見たことがある。

 井上さんも私もきっとどこかで会ったことがあるんだけど、思い出せないでいるのだろう。会ったとしたらたぶんお互い化粧をしていたと思うから。
(私はいまのところ思い出せていない)

「えー...井上さん、今日初めてのヨガですね? どこかで受けられたことはありますか?」

 完全な営業スマイルで微笑みかけた。

「...いえ、ないです。初めてなので」

 井上さんは下を向いたまま肩をすぼめながら言った。

 シャイな人なのかな?

 だとしたらあまりあれこれ聞かないほうがいい。
< 58 / 261 >

この作品をシェア

pagetop